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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)196号 判決

原告

菅原勇

原告(反訴被告)

豊山敏隆

被告(反訴原告)

小原建設株式会社

被告

山之内信樹

主文

被告らは各自、原告菅原勇に対し、金二五七万七三八〇円およびこれに対する昭和五一年一月三〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告豊山敏隆の被告らに対する請求および原告菅原のその余の請求をいずれも棄却する。

本訴訴訟費用は原告豊山敏隆と被告らとの間に生じた分はこれを全部同原告の負担とし、原告菅原勇と被告らとの間に生じた分はこれを四分し、その一を同原告の、その余を被告らの負担とする。

反訴被告は、反訴原告に対し、金一一万六七四〇円およびこれに対する昭和五一年八月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

反訴原告のその余の請求を棄却する。

反訴訴訟費用はこれを三分しその二を反訴原告の負担とし、その一を反訴被告の負担とする。

この判決は原告、反訴原告各勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

被告らは各自、原告菅原勇に対し、金三一三万一四二〇円、同豊山敏隆に対し、金八七万六七八〇円および右各金員につき本訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

反訴被告は、反訴原告に対し、金四〇万五八〇〇円、およびこれに対する本反訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

反訴訴訟費用は反訴被告の負担とする。

仮執行の宣言。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

反訴原告の請求を棄却する。

反訴訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二  請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五〇年九月二〇日午後四時ごろ

2  場所 大阪市住之江区浜口西三丁目二番二四号先交差点

3  加害車 普通乗用自動車(泉四四み一〇二二号)

右運転者 被告山之内信樹

4  被害車 普通乗用自動車(泉五六ち二七一四号)

右運転者 原告豊山敏隆(原告菅原勇はこれに同乗していた)

5  態様 原告車(被害車)が信号のある交差点を西に向つて直進中のところへ、西から南へ向けて右折してきた被告車(加害車)が強引に原告車の前方を横切つたため、原告車の前部が被告車の左中央部へ衝突した。

6  受傷内容 原告菅原は頸部捻挫

原告豊山は頸部挫傷兼左肩挫傷

7  物損内容 原告車(原告菅原の所有)大破

二  責任原因

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告小原建設株式会社(以下被告会社という)は、加害車を保有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告山之内信樹を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告山之内信樹は 加害自動車の運転者として、事故発生交差点で右折しようとしたのであるが、このような場合には前方、側方の交通の有無を注視し、直進車がある場合にはその進行を妨害しないようその通過を待つて右折すべきであるのに、これを怠り、原告車が通過する前に右折できるものと軽信して強引に右折を敢行した過失により本件事故を発生させた。

さらに、被告山之内は事故当時無免許で、しかも運転技倆未熟であるのに加害車を運転していたものである。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷 原告両名とも請求原因一項6のとおり。

(二) 治療経過

原告菅原

昭和五〇年九月二〇日より同年一一月二六日まで六八日間入院

昭和五〇年一一月二七日より通院中

原告豊山

昭和五〇年九月二〇日より同月二三日まで通院の後、同二三日から同年一一月九日まで四八日間入院、翌日より通院治療中

2  治療関係費(原告菅原関係分)

(一) 治療費

金四五万五五八〇円(南港病院分)

(治療費総額一四五万五五八〇円のうち強制保険より支払われた残額)

(二) 入院雑費 三万四〇〇〇円

入院中一日 五〇〇円の割合による六八日分

(三) 入院付添費 二〇万四〇〇〇円

入院中付添い、一日三〇〇〇円の割合による六八日分

(四) 通院交通費 九六〇〇円

一日三二〇円の割合による三〇日分

3  休業損害

原告菅原勇は、事故当時大阪トヨタ自動車株式会社に勤務し、一か月平均九万七〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により昭和五〇年九月二〇日から昭和五一年七月末日までは全く休業を余儀なくされ、昭和五一年八月一日から同年一〇月八日までは一日に二~三時間就労したので、この二か月間にあつては一月当り五万円宛の減収となつた。よつて以上合計額は一〇七万円となるが、このうち勤務先より九万七〇〇〇円の支給を受けたので、残額九七万三〇〇〇円が本件事故のため原告が失つた収入額となる。

4  慰藉料 金一〇〇万円

原告菅原は昭和五〇年四月に大学卒業後、試験に合格して前記大阪トヨタに就職し、実社会への第一歩を踏み出した矢先に本件事故に遭い、しかも予期しなかつた勤務先との軋轢により、極度の精神的不安に直面し、遂に復職することなく昭和五二年二月末付で右会社を退職し、現在再就職先もなくアルバイト中であり、かように本件事故は原告菅原に甚大な被害を与えたもので、これらの点も慰藉料額の算定にあたり十分に考慮されるべきである。

5  被害車両修理費 金二五万五二四〇円

6  弁護士費用 金二〇万円

7  治療関係費(原告豊山関係分)

(一) 入院雑費 二万四〇〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による四八日分

(二) 入院付添費 一四万四〇〇〇円

入院中付添い、一日三〇〇〇円の割合による四八日分

(三) 通院交通費 六〇八〇円

一日三二〇円の割合による一九日分

8  休業損害

原告豊山敏隆は事故当時、豊山製作所に勤務し、一か月平均九万円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五〇年九月二〇日から昭和五〇年一二月二〇日まで休業を余儀なくされ、その間二七万円の収入を失つた。

9  慰藉料 六〇万円(原告豊山分)

10  弁護士費用 一〇万円(右同)

四  損害の填補

原告豊山敏隆は次のとおり支払を受けた。

自賠責保険金 二六万七三〇〇円

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三  請求原因に対する被告らの答弁

一のうち5(事故の態様)は争い、6、7(受傷、物損の内容)は不知。その余は認める。

二の1は認める。

二の2は過失の点を除き認める。

二の3は被告山之内が事故当時無免許で被告車を運転していたことは認めるが、その余は争う。

本件事故は原告豊山が前方不注視のため、進路前方交差点へ先に進入して右折進行中の被告車の存在に気づかず、減速しないで突入してきた一方的過失により惹起したものである。

三はすべて不知。

四は認める。

第四  被告らの主張

一  免責(被告会社)

本件事故は前記のとおり原告豊山敏隆の一方的過失によつて発生したものであり、被告らには何ら過失がなかつたから、被告会社には損害賠償責任がない。

二  過失相殺(被告両名)

仮りに免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告豊山敏隆にも前記のとおりの過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

三  損害の填補

本件事故による損害については、原告らが自認している分を含めて、次のとおり損害の填補がなされている。

1  原告菅原については治療費一四六万四八八〇円のうち、一〇〇万円が昭和五一年二月二〇日自賠責保険より支払われた。

2  原告豊山には同人が要した治療費七三万二七〇〇円の全額が前同日自賠責保険より支払われた外、同件同月一二日に右保険から同原告に金二六万七三〇〇円の支払があつた。

第五  反訴請求原因

一  事故の発生および責任原因

(一)  反訴原告の従業員である山之内信樹は反訴被告(本訴原告豊山敏隆)主張の日時、場所(同交差点には信号がある)に反訴原告所有の普通乗用自動車(泉四四み一〇二二号)を運転して西方より進入し、減速しながら前方左右を注視し自己車に優先すべき自動車のないことを確認して右折南進していた。

(二)  そのとおり、反訴被告豊山は普通乗用自動車(泉五六ち二七一四)を運転して右交差点手前を東方より西方に向かい進行中であつた。

このような場合、反訴被告は前方左右を注視して、前方の交差点に先に進入している車両の有無を確かめ、もし先入車があるような場合には一時停止または徐行して、その車の進行を妨げないように運転すべき注意義務がある。

(三)  しかるに、反訴被告は右注意義務を怠つたために反訴原告車の存在に気づかず、従来の高速度のまゝ減速せずして強引に同交差点に進入して、交差点を南進していた反訴原告車の中央部に衝突した。

(四)  その結果、反訴原告車は大破し、かつこの衝突による衝撃のために投げ出されるようにはずみをつけて南行し、たまたま信号待ちのため同交差点の南側道路上で一時停止していた訴外藪本明彦所有でかつ同人が運転していた普通乗用自動車の前頭部に激突し、同車をも破損せしめた。

(五)  この事故は反訴被告の一方的な過失によつて発生したものである。従つて、反訴被告は反訴原告が本件事故で蒙つたつぎの損害を民法七〇九条により賠償すべき義務がある。

二  反訴原告の蒙つた損害

(一)  反訴原告車修理費金二〇万五〇〇〇円

(二)  訴外藪本車の破損修理費金五万八八〇〇円

(三)  反訴原告は、右二台の車両修理期間中、業務上の必要により藪本と反訴原告が使用する車両二台を他から借用し、その借上げ料として金九万二〇〇〇円を支払つた。

(四)  弁護士費用 金五万円

三  よつて反訴請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第六  反訴請求原因に対する答弁

一の(一)については、山之内信樹において減速しながら前方左右を注視し、自己車に優先すべき車両の存在しないことを確認してとの点を除いて認める。右の部分は否認。

一の(二)については反訴被告が東から西に向つて進行中であつたことは認めるが、その余は争う。

一の(三)は否認。

一の(四)は不知。

一の(五)は否認。

二(損害)はいずれも不知。

第七  被告(反許原告を含む)らの主張に対する原告(反訴被告を含む)らの反論被告山之内の過失について。

本件事故は以下の事由からも明らかな通り、被告山之内の一方的過失によつて惹起されたものである。

一  本件事故は直進車と右折車との衝突事故であるが、原告車は直進車であるのみならず、原告車が走行していた道路幅員は二五メートル(車道だけでも一七メートル)もの広路であるのに対し、被告車側幅員は僅か六メートルであり、明らかに原告車は広路優先車であつた。

二  被告山之内は右折するにあたつて、東側中央分離帯寄りに停つていた大型トラツクが発進するのではないかとそれに気をとられ、東側の安全を確認しないで右折進行を続けたために、原告車に気付くのが遅れ、本件事故を発生せしめたもので、左方に対する安全確認義務を怠つたことによる事故であることは、同人自身が警察において供述しているとおりである。尚被告山之内は右折するにあたり、中央分離帯附近で一旦停車した旨の供述をしているが大型トラツクによつて東方の見とおしが全くきかなかつたのであるから、たとえ一旦停車したとしても、これを以つてたゞちに安全確認義務を尽したことにはならない。

また被告山之内は原告車が事故発生現場交差点の直前で南側車線へ切り込んできたゝめ発見が遅れた旨供述するけれども、そのような事実はないだけでなく、原告車のスリツプ痕をみても、右の事実を窺うことはできないから、同人の右供述は場当り的な口実に過ぎないことは明らかである。

三  原告車は青信号に従い広路を直進していた優先車であるから、本件のように広路と狭路の交差する交差点で除行もしくは停止する義務はなく、さらに信号を無視して進行する車両や、直進車の接近を無視して強引に右折を敢行するような車両の存在することまで予測して進行すべき義務はないから、原告車には何らの過失もない。たゞ、山之内が大型トラツクに遮られて東側の見とおしがきかなかつたと同様、原告車も被告車を確認できなかつたという事情はあるが、本件の如き道路状況および車両の進行態様を前提とすれば、信頼の原則上、安全確認は山之内にこそ要求されるが、原告車運転者にこれを要求することはできない。

四  被告山之内は事故当時無免許運転であつたばかりでなく、二回の道交法違反の前歴があり、加えて同人は明らかに近視で、本件事故も見とおしの困難さと、近視による距離感覚の欠如に起因しているものと推測される。

証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争がなく、同5の事故の態様については後記第二の三で認定するとおりである。

第二責任原因

一  運行供用者責任

請求原因二の1の事実は、当事者間に争がない。従つて、被告会社は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告らの損害(原告菅原車の修理費を除く。)を賠償する責任がある。

二  使用者責任

請求原因二の2の事実は、過失の点を除き当事者間に争がなく、過失の点については後記第二の三で認定するとおりであるから、被告会社は民法七一五条一項により、本件事故による原告菅原の車両修理費の損害を賠償する責任がある。

三  一般不法行為責任

成立に争いのない甲第九、甲第一四ないし甲第一九号証に、証人藪本明彦の証言、原告菅原勇(第一回)、同豊山敏隆、被告山之内信樹各本人尋問の結果を綜合すると、つぎの事実が認められる。

事故発生現場は、中央分離帯をはさんで東行き、西行き各車線とも幅員七・五メートル宛(各二車線になつている)の東西道路(車両走行速度は時速四〇キロメートルに制限されている)と、幅員六メートルの南北道路との交差点内で、信号によつて交通整理が行なわれており、路面はアスフアルト舗装され、平たんで事故当時乾燥していた。

原告豊山は右東西道路を原告車(原告菅原所有)を運転して、時速五〇キロメートルくらいで西進していたが、右事故発生交差点にさしかゝる相当手前から中央分離帯寄りの車線(第二車線)内で大型貨物自動車(トラツク)が右交差点を右折するため停止しているのには気付いていたが、自車はその南側の第一車線(歩道寄り)を直進しており、この交差点を通過するのであり、対面信号は青色を表示していたので、本交差点において他方から出てくる車両等はないものと思い、減速することもないまゝに進行していたところ、自車前方約二二メートル先に前記停止中の大型トラツクの影から出てきた被告山之内運転車を発見、その後急制動措置をとつたものゝ及ばず、一二・八メートル程進行したところで、発見後六メートル位進行してきていた被告車左側面ドア部分と自車前部が衝突し、その衝撃で被告車はさらに五・二メートルくらい進み、おりから東西車道の南に接してある幅員四メートルの歩道の南端沿いあたりに停つて信号待ちしていた訴外藪本車にも衝突した。

一方被告山之内は被告車を運転し前記東西道路を東進して事故発生交差点手前にさしかゝり、この交差点を右折したうえ南進するため、右折の指示灯をつけ減速しつつ走行していたところ、東から西に向つていた対向の大型トラツクも右折の指示灯をつけ進行してきていたので、これが動静に注意しつゝハンドルを右に切りながら交差点内の中央分離帯の少し北寄りで一旦停止した。すると右トラツクも停止していたので、それなら自車が先に右折しようと考え第一車線(南側車線)における対向車両の有無等交通の安全不確認のまゝ時速約一〇キロメートルくらいで右大型トラツクの前方に出たため、右車両によつて遮られていた視界が開けたと思つた途端、車両の急制動音を聞き、急いでその方を見たが原告車との距離が接近していたためどうすることもできず、前記のとおり衝突したもので、被告山之内は当時事故車を無免許で運転していた。

被告山之内信樹本人尋問の結果中、右認定に反する自車が交差点内で一旦停車した時、交差点東側の一番南側車線の三〇ないし四〇メートル東方まで安全確認した。原告豊山運転車はこの車線を進行していなかつた。同車は西行道路の北側車線を走行してきて前記大型トラツクの後方で車線を変えて突込んできたのだと思うとの各供述部分は、いずれも前掲各証拠(とくに甲第一八、第一九号証)に徴して措信できないし、他に右認定を左右するに足る証拠もない。

右認定の事実によれば、被告山之内には被告車を運転し、本件交差点を右折南進するに際し、西進車道第一車線内を走行してくる直進車のあることは当然に予測されるところであるから、右折にあたつては右第一車線における交通の有無および安全を確認できるあたりで一時停止できる程度に徐行しつつ右折進行し、その安全確認をなしたうえで南進すべき自動車運転者としての注意義務を怠り、対向右折の大型トラツクに気をとられたまゝ時速約一〇キロメートルで漫然と南方方向をみて進行した過失により、原告車には同車運転者である原告豊山が先に被告車に気付き、急制動の措置をとり、その制動音を聞くまでこれが存在に気付かなかつたため、本件事故を発生せしめたものであると認められるから、被告山之内には民法七〇九条により本件事故によつて原告らが蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

四  免責の抗弁

右被告自動車運転者である被告山之内に前認定のとおり、右自動車の運行に関し過失があることが明らかである以上、被告会社の免責の抗弁は理由がない。

第三損害

1  受傷、治療経過等

(原告菅原)

原告菅原勇(第一、二回)本人尋問の結果およびこれによつて、いずれにも真正に成立したものと認められる甲第二、第一〇、第一一、第二二号証によれば、同原告は本件事故により頸部捻挫の傷害を負い、大阪市住之江区内の南港病院に昭和五〇年九月二〇日から同年一一月二六日まで六八日間入院、翌一一月二七日から昭和五一年一〇月六日まで(実治療日数一〇八日)通院して治療を受け、この間頸部痛、肩こり、頭痛があり、両上肢のしびれ、放散性疼痛等を訴えていたが、巻法、低周波、牽引療法等施行により前記最終通院日を以つて治癒となつたことが認められる。

(原告豊山)

原告豊山敏隆本人尋問の結果およびこれによつていずれも真正に成立したものと認められる甲第四、第一二号証によれば、同原告は本件事故により、頸部挫傷兼左肩挫傷の傷害を負い、前記南港病院に昭和五〇年九月二〇日から二二日まで通院して治療を受けていたが、頸部痛、肩こり等が強いため医師の指示により翌二三日から同年一一月九日から四八日間入院、翌日より同月三〇日まで(実治療日数一九日)再び通院し、投薬、注射、温湿布、低周波療法等施行、これによつて右最終通院日を以つて日常生活ができる程度にまで軽快したことが認められる。

2  治療関係費(原告菅原勇関係分)

(一)  治療費

原告菅原勇本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第一三号証によれば、同原告は昭和五一年一月一日から同年一一月一〇日までの間に、本件事故による受傷治療のため南港病院に通院治療したことによる治療費として金四五万五五八〇円を要したことが認められる。

(二)  入院雑費

原告菅原勇が六八日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計三万四〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  入院付添費

原告菅原勇本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第二二号証と経験則によれば、同原告は前記入院期間中少くとも三〇日間は付添看護を要し、その間母が付添い一日二、五〇〇円の割合による合計七万五〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(四)  通院交通費

前記甲第二二号証および原告菅原勇本人尋問の結果によれば、同原告は前記通院(一〇八日)のため一日当り三二〇円、合計三万四五六〇円の通院交通費を要したことが認められる。

3  休業損害

原告菅原勇本人尋問の結果およびこれによつていずれも真正に成立したものと認められる甲第八、第二二号証によれば、同原告主張のとおり九七万三〇〇〇円の(本訴請求原因三、3)休業損害を本件事故による受傷のため蒙つたことが認められる。

4  車両修理費

原告菅原勇本人尋問の結果(第一回)およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第七号証によれば、同原告はその所有車両を本件事故により破損せられ、その修理費用として金二五万五二四〇円(部品代一五万九九四〇円、修理工賃九万五三〇〇円)を要することが認められる。

5  治療関係費(原告豊山敏隆関係分)

(一)  入院雑費

原告豊山敏隆が四八日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計二万四〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(二)  入院付添費

原告豊山敏隆本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一二号証と経験則によれば、同原告は前記入院期間中少くとも一四日間は付添看護を要し、その間母が付添い一日二五〇〇円の割合による合計三万五〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(三)  通院交通費

前記甲第一二号証および原告豊山敏隆本人尋問の結果によれば、同原告は前記通院(一九日)のため一日当り三二〇円、合計六〇八〇円の通院交通費を要したことが認められる。

6  休業損害

原告豊山敏隆本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第六号証によれば、同原告主張のとおり二七万円の(本訴請求原因三、8)休業損害を本件事故による受傷のため蒙つたことが認められる。

7  慰藉料

本件事故の態様、原告菅原、同豊山の各傷害の部位、程度、治療の経過、年齢、その他諸般の事情を考えあわせると、原告菅原勇の慰藉料額は金五五万円、同豊山敏隆の慰藉料額は金二五万円とするのが相当であると認められる。

第四過失相殺

前記第二の三認定の事実によれば、本件事故の発生については、原告豊山においてもいかに直進車であるとはいえ、事故現場交差点において対向車線からの右折車の有無が自車右前方に停車していた大型トラツクに遮られて確認しにくい状況にあつたから、その側方を通過するにあたつては減速し、さらには警音器を吹鳴する等して交差点内における自車右方からの交通の安全を確認したうえ通過進行すべき自動車運転者としての注意義務があるのに、これを怠り従前の速度のまゝ進行した過失が認められるところ、前記認定の被告山之内の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告豊山敏隆の本訴請求外の損害である南港病院における本件受傷治療費六七万七〇二〇円(原告豊山敏隆本人尋問の結果により成立を認めうる甲第五号証により認める)を含む同原告の総損害額(一二六万二一〇〇円)の三〇%を減ずるのが相当と認められる。

(なお成立に争いのない甲第一六、第一七号証、原告豊山、同菅原(第一回)各本人尋問の結果によると、原告菅原については、本件原告車は同人の所有であり、事故前日友人である原告豊山から車を貸して欲しいとの申出があつたので、これに応じて同原告に本件原告車を貸与したのであるが、その折豊山から盗まれた車を住之江区内の南港まで捜しに行くというのを聞き、そこで菅原も本件事故現場より西方約三〇メートル余のところにある菊川自動車に所用で行く予定があつたので、同車に便乗して行くことゝし、助手席に同乗していて本件事故に遭つた事実を認めることができるが、右両者の関係からみて、いまだ原告豊山の前記過失をとらえて、原告菅原との関係でいわゆる「被害者側の過失」と評価することはいさゝか困難なので、原告菅原の損害の算定にあたつては過失相殺しない。)

第五損害の填補

請求原因四の事実は、原告豊山、被告両名間に争がなく、同原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証と弁論の全趣旨によれば、自賠責保険より同原告の南港病院における本件受傷治療費六七万七〇二〇円が支払われておることが認められる。そうすると同原告の前記損害額八八万三四七〇円から右填補分を差引くと、結局残損害額はないことゝなる。

(さらに原告菅原の関係では、自賠責保険より同原告の南港病院における本件受傷治療費として、一〇〇万円が支払われておる事実は、同原告、被告両名間に争のないところであるけれども、これは同原告の本訴請求外の損害である。)

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告菅原勇が被告両名に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金二〇万円とするのが相当であると認められる。

第七反訴請求

一  反訴原告主張の日時、場所において、山之内信樹運転にかゝる反訴原告所有の自動車が西方より進入し右折南進したおり、右交差点手前を東方より西方に向け直進中であつた反訴被告運転の自動車と衝突する事故が発生した事実は当事者間に争いがない。

二  ところで右事故の態様については、さきに本訴責任原因三の一般不法行為責任の項で認定したとおりであり、右事実によれば本件反訴被告(豊山)にも同じく第四過失相殺の項で指摘した過失が認められ、右過失によつて本件衝突事故が発生したことは明らかであるから、反訴被告には民法七〇九条により、本件事故で反訴原告が蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

三  そこで反訴原告が本件事故により蒙つた損害についてみるに、反訴原告(被告会社)代表者小原成良尋問の結果およびこれによりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一、第二、第三号証によれば、反訴原告はその従業員である山之内信樹が運転していて本件事故により破損した自己所有車両および右事故の衝撃でなお前進し自車進路前方に停車していた訴外藪本車をも破損したので、この二台の車両修理を大阪市住之江区御崎六丁目所在の神崎自動車工作所において為し、この修理代として反訴原告分二〇万五〇〇〇円、訴外藪本分として五万八八〇〇円を要したこと、さらに両車修理期間中、同工作所において代車二台を借り(藪本については五日、反訴原告は一四日間)、この代金として合計九万二〇〇〇円を反訴原告から同工作所に支払つた事実がそれぞれ認められる。

四  前記二認定の事実によれば、本件事故の発生については反訴原告の従業員で反訴原告所有車の運転者であつた訴外山之内信樹にも本訴責任原因三の一般不法行為責任を認定した項で指摘のとおりの過失が認められるところ、前記認定の反訴被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として反訴原告の損害の七〇%を減ずるのが相当と認められる。そうすると、反訴原告の損害額は結局金一〇万六七四〇円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、反訴原告が反訴被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金一万円とするのが相当であると認められる。

第八結論

よつて被告両名は各自、原告菅原勇に対し、金二五七万七三八〇円およびこれに対する被告らへの訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五一年一月三〇日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告菅原の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、原告豊山敏隆の被告両名に対する本訴請求および原告菅原のその余の請求はいずれも理由がないから棄却することゝする。

ついで反訴については、反訴被告は反訴原告に対し、金一一万六七四〇円およびこれに対する反訴被告へ反訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五一年八月一二日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、反訴原告の請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することゝし、本訴、反訴を通じ訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条(本訴につき同法九三条)仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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